B:暴食の生垣 草賢人
移動性の植物であるゲノーモスは、小さな生垣に似た愛らしい姿をしていますが、肉食でしてね。草陰に隠れようと寄ってきた小動物を捕食するんです。今回、討伐して標本を採取してきてほしいのは、ゲノーモスの中でも、特に大きく成長した通称「草賢人」……。ネズミの類じゃ、まるで食欲を満たせなくなってましてね。油断してたら、貴方だって食べられちゃうかもですよ?あっ、冗談だと思いました?だったら、なぜ「草賢人」と呼ばれるのか考えた方がいいですよ。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「あれ絶対中に人が入ってるでしょ?」
あたしはモソモソ動き回る枯葉の山を腕組みして見ながら言った。ラヴィリンソスの研究対象の植物の中には根を持たない移動性の植物がいる。ゲノーモスだ。ゲノーモスは小さな生垣や掃き集めた落ち葉の山に似た姿をしていて、ウネウネ動く。葉っぱの茂る藪から藪をモソモソ動き、茂みにうまく溶け込んで動きを止めるとぽっかり口を開きじっと待つ。そして気づかずに空いた口に入り込んだ小動物を丸呑みしてしまうという肉食の植物だ。基本的に獲物を待ち受けするタイプの植物なので人間への被害は今回聞くまで一度も耳にしたことがない。
「どうやって消化してるのかは気になるよね」
相方が同じように動く枯葉の山を見ながら言った。
今回問題になっているのはそのゲノーモスの進化系になるんだろうか?サイズ的には一回り程大きいが、見た目はほとんど変わらない。違うのは捕食の方法で、本来獲物が飛び込んでくるまでじっと待つ「待ち受けタイプ」なのだが、草賢人と呼ばれるこいつは自ら捕食行動をとる。つまり「襲い掛かって食う」のだ。そうなると草賢人が食べられると思えば人にも襲い掛かるという事なのだから俄然危険性が変わってくる。実際アルケイオン保管院の農作物研究部の研究員が一人犠牲になっているのだが、あたしにはどうもピンと来なかった。一回り大きいと言っても、人間が草賢人の口に入るには中腰くらいにはならなければ入れない。だったら口の中で立ち上がれば葉っぱを集めただけのように見える草賢人の体はバラバラに散ってしまうんじゃないの?と感じるのだ。実際アルケイオン保管院の研究員にもこの疑問をぶつけてみたのだが、逆に「興味があるのでもし余裕があったら試してみてください」と返されてしまった。
「まさか…試さんよね?」
背中から相方の疑惑に満ちた声が聞こえる。
「やらないわよ~、まだまだ生きていたいもん」
「なんか言葉に気持ちが入ってないけど」
相方の突っ込みはいつも的確だ。
「よし、じゃ、行ってみるか~!」
あたしは誤魔化し半分に言った。
唇を尖らせた相方は木陰から走り出ると、そのまま走りながら草賢人に向かって斬撃を飛ばす。草賢人の右目の上の葉っぱがザッと散る。これは特にダメージを狙った攻撃ではなく、注意を引くための猫パンチのようなものだ。
相方は走りを止めないで草賢人の向こう側に走っていく。
案の定、草賢人は相方を追って向きを変え、あたしに背中を見せた。
あたしも木陰から出ると杖を構え詠唱を始めた。詠唱が半分ほど終わったその時、草賢人の体の葉っぱがザワザワッと動いたかと思うと、何も無かった背中に目と口が浮かび上がった。
草賢人の向こうで相方が「なんでー!」と叫んでいる。
本命の攻撃はあたしの方だと理解する程知能が高いのだろうか?アルケイオン保管院の職員の言葉が甦る。
「冗談だと思いました?だったら、なぜ「草賢人」と呼ばれるのか考えた方がいいですよ」
言われた時はちょっとムッとしたが…まさかね。
あたしは何があっても対応出来るよう一旦詠唱を止めた。その瞬間、草賢人がスプリングや蛇腹を伸ばす様にニョ~ンとあたしに向かって凄いスピードで伸びてきた。
「そんな動き方なのっ⁉️」
あたしは咄嗟に後ろに飛び下がりながら杖を振って無詠唱で放てる衝撃波を飛ばした。草賢人は衝撃波を顔面に食らって葉っぱを散らしながら反り返るとスルスルと体を短くして元の形に戻った。